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しっとりとした唇が重なった。もう馴染んでしまった感触だけに緊張よりも安心感が勝る。
人が沢山行き交う場所なのに、イルミネーションが輝く道端なのに、彼に触れられて安心している自分がいる。もっと触れてほしい、と思う自分がいる。
いったいいつからこんなにも大胆になったんだろう。
それなのに、志築くんはたった一度だけ、簡潔なキスをして唇を離した。
「……早く帰りましょう」
「……そうね」
「腹減りました」
眉をへにょりと下げて笑う彼に同意した。
気を使ってくれている言葉だとありありとわかる。だけど、気が急いているのは隠しきれていないようだった。
先ほどよりも少し歩みを速めた彼に遅れないように歩く。だけど、繋いだ手はこちらを窺うように優しくて、力強くて頼もしくて温かかった。
「飯、何かテイクアウトします?」
「そうね。いつものところでいいと思うわ」
さっきまで感動していたイルミネーションが今はもう飾りのようにしか見えない。
志築くんを彩る飾りだ。エフェクトが更にかかった彼は表情を緩めると信号を渡り切ったところでふと足を止めた。
「今日帰さなくていいですか?」
「……え?」
「帰らないで。朝まで俺の傍にいてほしい」
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