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とはいえ、決まってしまったのだ。
私が頷いた。ううん、頷かずにはいられなかった。あんなに期待の篭った目で嬉しそうに言われると断ることなんてできない。
きっと断れば尻尾を垂らして耳を垂らしてシュンと落ち込んでしまうだろう。
背の高い彼が背中を丸めて、とても悲しそうにトボトボ歩く姿を想像して少し笑ってしまう。
「あぁ、もう」
可愛い人ね、と心の中で呟いて明日の通勤に着る服を準備した。
化粧品も必要かしら、という疑問は全て一瞬で解決する。同じ建物なのだ。余計なものを持っていったとしてもそれほどの距離じゃない。
修学旅行以来のお泊まりに荷物の準備と言われても正直なところ何を持っていけばいいか分からない。
とりあえず、メイクを落としてお風呂に入って、部屋着に着替えながら準備をしているとあっという間に1時間も経ってしまった。
「遅かっ……た、と思ったら」
それでも少々慌てて志築くんの部屋に向かえば、玄関を開けて出迎えてくれた彼は目を丸くした後頭を抱えてしまった。
何か間違ったことをしてしまったのか、と気になって自然と視線が下がってしまう。
「……どうしてこんな格好でウロウロするんですか」
部屋着とはいえ、やはりだらしなかったということか。いい大人がすっぴんに緩いワンピース1枚でウロウロするなと言いたいらしい。
「いや、絶対違う。彩羽さんが考えていること分からないけど違うことは分かる」
どういう意味だ、とキョトリと首を傾げる。
彼は大袈裟にため息を吐いた。
「そんな、可愛いカッコで歩かないでください。変な奴に部屋に引き込まれたらどうするんですか」
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