47/48
前へ
/211ページ
次へ
   にこにことしている志築くんを無言で見つめているとちゅ、とおでこにキスが落ちてきた。  目を丸くする私に「おやすみのキスです」と笑う。  「さあ、寝ましょうか」  「?!」  はい、とも、うん、とも言う前に、彼は私を子どものように抱き上げてしまった。  驚いて思わずがっちり彼に抱きつく。  「……自分で歩けるわ」  「俺が運びたいんです」  しっぽをぶんぶん振ってきゃんきゃん鳴く志築犬。彼は私を丁寧にベッドに転がすと、その隣に身体を横たえた。  布団をかぶり、彼の長い腕が腰を抱く。下敷きになって苦しくないのだろうか、と思っていたら、それを読んだように彼は言った。  「大丈夫です。この方が抱きしめてるって実感しますし」  向き合って器用に私を抱きしめたまま、彼は笑った。目を細めて眦を下げる。その瞳はとてもキラキラとしていて私は思わず見入ってしまった。  すると、それを咎めるように彼の手のひらが頬を包み込んだ。恥ずかしいような、照れ臭いような、いつでもキス出来そうなぐらいこんな距離で彼が甘く囁く。  「彩羽」  とくん、と声の代わりに心臓が返事した。  この距離だけで心臓がはち切れんばかりにうるさいのに、また一際大きく波打つ。  「二人のときは『彩羽』って呼んで良い?」  敬語もなしで、と付け加える。  お伺いを立てるような目線に、私は挙動不審になりながら小さく小さく頷く。  
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4481人が本棚に入れています
本棚に追加