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本当はこんな醜い部分を曝け出して受け入れてほしい、とも思う。だけど、今はまだ隠し通さないといけない。
色んなことが初めての彼女のことを考えると、まだまだ早計だ。優しすぎるぐらいがちょうど良いのだと思っている。
「お先に失礼します」
おつかれ〜、とオフィスにいる同僚から声が帰ってきた。彩羽さんはいない。彼女は今、館でブライダルフェアに参加したお二人様のために見積作成だったり、プランナーへの指示をだしている。
「志築です。シーバー切ります。おつかれさまでした」
ジャケットの襟に付けたマイクをオンにして、館にいるプランナー達に声をかける。
本日は朝一からパーティーがあり、出社したのは六時だった。今は夕方の四時を回った頃。彩羽さんはまだまだ就業中だ。
「おつかれ様でした」
凛とした声がイヤフォンから返ってきた。今まで固く感じていた声が少しだけ温かさを感じる。続けてプランナーからも返ってきた。どうやら今日の成約率は良くないらしい。
更衣室で着替え、制服をクリーニングに出す準備をして帰宅する。
十二月ももうこの時間になれば既に真っ暗で、街頭が必要だった。
館の方を見れば、館の案内をするプランナーとちょうどパーティー終わりの列席者が入り混じっていた。
前者はパンフレットと館を見比べながらプランナーの話を真剣に聴き、後者は引き出物の袋を持って、楽しそうに駅に向かって歩いていく。
そんな彼らの背中を見送りながら数日後に迫ったクリスマスをどうしようか、と考えた。
どうもするも、昨日彩羽さんから気持ちをもらったから特に何をする、わけではないけれど。
「……ないな」
マフラーでくぐもった声が失笑する。自分でも呆れるぐらい馬鹿なことを考えてしまった。
「どんな我慢比べだよ」
色んなことが初めてなせいか、彼女はライオンを前にした子うさぎのようにぷるぷる震えていた。昨夜も一緒にベッドに入っただけで身体がカチコチで、リラックスしてほしくて子どものようなキスを繰り返したけれど。
「俺のが自信がないって」
目を潤ませて必死についてこようとする彼女が可愛すぎて辛い。自分に経験がないことをコンプレックスだと感じている彼女が健気で意地らしい。全然そんなこと気にしなくてもいい。
全部俺が教えるから。そう思っていてもいきなりがっつくのは違うとわかっている。
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