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 良い匂いがして意識が浮上した。まだ瞼が重いせいで目は開けられないが、きっと彼女が帰ってきたのだろう。  そう思うとなんだか心がぐっとあたたかくなってたったそれだけで幸せを感じる。    耳を澄ませば聴こえる生活音。何かを焼いているのか、パチパチと油の跳ねる音が聞こえた。「ピピピッ」と電子レンジのアラーム音が鳴り「ガチャン、バタン」とそれを取り出しただろう音も解る。  カチャカチャ、と食器が擦れる音。ジャーッと水を流す音。彼女の手際の良さを思い出しながらその音に浸っていると、不意に音が全て止み、静かに静かに足音が近づいてきた。  キッチンからこのソファーは回り込まないと見えない場所にあるせいか、彼女は俺を起こしにきたんだろうと推測した。もちろん起こされたい俺は寝たふりを続ける。  「………」  一瞬だけ影ができた。けれどそれだけで彼女はすぐにその場を離れてしまう。遠ざかる気配に起こすタイミングを逃した俺はどうしようかと考える。  ただ、「起きて」と彼女に起こされたかった。  きっとこれから何度もできるだろうそれを早く味わいたかった。  あとは、普通の恋人同士のようなイチャイチャをしてみたい。きっと彼女の目がぐるぐる回るだろうし、少し警戒されるかもしれないけれど、やっぱり「触れたい」と思うから。  それをどう伝えようかと目を瞑ったまま考えていると、再びやってきた気配に俺は息を整える。だが、彼女は何を思ったのか今度はある程度近づいたままそれ以上寄ってこなかった。  どうしたんだ、と訝しく思っていると「カシャ」と、シャッターを切った音が聞こえた。  「「え?」」  思わず目を開ければ目をまんまるにした彼女がソファーから少し離れた場所に座り込んで携帯を構えていた。この角度からするとバッチリ俺の寝顔が見れる場所だ。  「ご、ごめんなさい!」  きっと隠し撮りしたことに対する謝罪だろうと思う。それにしたってそこまで慌てなくてもいいのに、と思うとなんだか可笑しくなってしまう。  「いいけど、別に。そんなに謝らなくても」  ぐっと伸びをして、クワっと欠伸をする俺を彩羽さんは申し訳なさそうに見ていた。そんな顔させたいわけじゃなかったのに、と思えばこちらがなんだかいけないことをした気分になる。  「どうしたの?」  おいで、と腕を伸ばせばおずおずと近づいてきた。まるで怒られると分かっている犬みたいだ。  そんな彼女が可愛くて自然と表情が緩む。彼女はソファーの端で正座をしたまま俺の顔を覗き込んだ。  
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