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 「彩羽」  こっち、と腕を伸ばして彼女の腕を掴む。しゅんとしている彼女をただ、無性に抱きしめたかった。状況をよくわかっていない彼女は俺に導かれるままソファーに膝を付く。  そんな彼女の腰を抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。  「そんなに謝らなくても」  「……でも、隠し撮りは良くなかったわ」  彼女は真面目だ。ふつう恋人の寝顔なりなんなり写真は持っていると思う。それに恋人を隠し撮りできるなんて恋人特権なのに。  「でも、寝てる俺を撮りたかったんでしょ?」  そう訊けば恥ずかしそうに頷いた。  「いいよ、撮っても」  「……いいの?」  「うん。ってか彼女の特権だと思うけど?」  極当たり前のことを言ったはずなのに、彼女の目から鱗が何枚もポロポロこぼれ落ちた気がした。そんな表情をする彼女を見ていると堪らなく愉快で愛おしく思う。  三十年以上生きていれば普通に持つ興味を彼女は持ってこなかった。自分には関係ない世界だと全部横にやって今まで生きてきた。  そのせいというか、そのおかげというか、色んな意味で真っ白だ。純真どころかなんかもう「俺でごめん」って感じなところもある。    「こういうことできるのも彼氏の特権」  薄目で彼女の表情を確認しながら、おでこにキスをする。その後唇にもして様子を伺った。  「彩羽もして」  甘えるように強請れば素直な彼女はそっとキスをくれる。ここまでになるのも少し時間がかかったけれど、今はだいぶ慣れたと思う。  「もっと、しよ」  唇が離れた隙に次の要望を述べた。彩羽さんの唇が僅かに開いて可愛らしい舌がちろりと覗く。  その舌を誘い出すようにキスを重ねた。        
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