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 この半月、志築くんはOJTの連続だった。  それに何より、結婚式にマニュアルはない。  一応の流れはあるものの、どの挙式にも拘りがあったり、イレギュラーがあったりする。  テーブルコーディネイトの花も、食事も同じなんてない。  だからこそ慎重に丁寧になるし、プリエールを理解した上で接客にでるよう教育していた。  のに。  「お電話ありがとうございます。プリエールです」  午後七時を回ったある日。  殆どのプランナーが既に退勤した後のこと。  オフィスには私、志築くん、アシスタントの島谷さんだけが残っていた。  三人ともそろそろ帰ろうと話をしていて、電話も留守電に変更しよう、とボタンを押す前にまるで滑り込むように電話が鳴った。  一瞬三人で目配せしたが、志築くんが電話を取る。「ええ」「はい」と会話が続く中、漸く電話を置いた彼は意地悪そうに笑った。  「今からご来館です」  「ええ!」  「安心してください。大丈夫ですよ」  一体何をもって大丈夫なのか、分からないが、彼は大丈夫という。  オロオロする島谷さんに帰るように伝えて、志築くんのフォローに回ることにした。
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