プロローグ

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 私、藤峰彩羽は非常にコンプレックスが強い子どもだった。  周囲の女の子たちより頭一つ跳びぬけた身長、加えて普通にしているだけで睨まれていると相手を勘違いさせる奥二重の目。  じっと見つめると威圧感を放つらしく、そのせいか私には友人と呼べる人がいなかった。  普通に話すことはある。だけどそれはいちクラスメイトとして、だ。  大人になれば「クラスに一人はいるよね」という、いつも一人ぼっちでグループワークはよく余る陰キャラ。それが私だった。  もともと口数も多くなく愛想もなかった。  少しでもニコリとできれば当時の私はもう少しうまくやれたかもしれない、なんて大人になって思う。  だけど思春期に抱いたコンプレックスはそう簡単に消えるはずもない。  大人になった今、社会人として取り合えず、必要最低限のコミュニケーションをとれるようにはなったけど、相変わらず自分に対するコンプレックスが強いまま今日まで生きてきた。  カラコンで瞳を大きく見せたり、マツエクでなんとか目元を和らげたりと色々やってみたけど、一周回った今、どれも自分には合わないと断念している。  とてもじゃないけど整形なんてする勇気もないと後回しにした結果、いつの間にか三十歳を超えていた。  今でもあの漫画のあの彼のセリフは私の胸の深い場所で光を放っていた。だけど、どこかで自分なんかと諦めてもいたりもする。  きっとこのままこうしていつものようにひとりで過ごしていくのだろう。  それが普通で当然で、そんな未来を疑わなかったのに。  それがこんなにもひっくり返るとは夢にも思っていなかった。
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