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 島谷さんは、事務職として入社した。元々は違う業界で、特にブライダル事業に希望を持っていたわけじゃない。  「この業界って小さなミスが命取りじゃない?花びら一枚萎れていても駄目だし、熨斗に小さな傷や擦れがあっても駄目。そんなの誰も気づかないって、っていうぐらいのものでも駄目って初めは『うへー』って思ったけど、考えてみると仕方ないわよね」  島谷さんはこの業界に入った後のギャップに驚いたそうだ。非常に細かい確認が多い。だけど、人生に一度きりの晴れ舞台だ。私達が任されている以上、120%で応えないと意味がない。  『良い結婚式だったね』ではなく『プリエールでよかった』と思って貰えるサービス提供をしなければならない。  だからこそ、細やかな配慮、行き過ぎるぐらい丁寧で問題ないのだ。  「そういう志築はどうなんだよ」  私は空気のようにその会話に耳を傾けながら、カニクリームコロッケを頬張る志築くんに視線を向ける。  彼は口の中の物を咀嚼して飲み込むとこの業界に来た経緯を教えてくれた。    
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