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 「まあ、綺麗………っ!」  九条様が会場入りして一時間半。  御新婦様はアンジュのオーダーメイドのドレスを美しく着飾り、もう間もなく始まるパーティーを今か今かと待ち侘びていた。  そこに最後のドレスのお直しに、と池上さんが登場。本来彼女は今日ここにいるはずじゃないのに何故かここにいて、子どものように目をキラキラさせてドレスを眺めている。  玲様は苦笑いだ。  「大変素晴らしい物を見せていただきありがとうございます!」  「とてもよくお似合いです!」  「オーダーメイド、……素敵…っ」  お着替えを手伝っていたスタッフの表情が皆蕩けている。たしかに美しいけれど、新婦様ちょっと引いてるからね。止めようね。  そこへ扉をノックする音が聞こえた。  スタッフが一人、その扉に向かい確認する。  すると、新郎様がもう待ちきれなくてやってきたらしい。    「大丈夫ですよ。開けてあげてください」  これには新婦様も笑っている。  新郎様をお招きすれば、スタッフ一同から感嘆な溜息が漏れる。「素敵」「まるで王子様」と小さな声が漏れた。  「……三度目だけど、……うん。いいな。綺麗だよ、玲」  だけど、新郎様はスタッフの視線や声をものともせず、ただ真っ直ぐに御新婦様の元に向かわれた。  誰一人見向きもされない。新郎様には周囲が壁のように映っているのだろう。  「ふふふ。ありがとう。でも、これが最後かと思うと寂しい」  新婦様は少し寂しげに俯くとそっとドレスを撫でた。新婦様に寄り添うように隣に腰掛けた新郎様は小さく首を横に振る。  「また着ればいい。違う形にしてもいいし」  「……うん、そうね」  違う形にする財力があり、かつ、伝手があるとは、と驚く一方、いつまでも微笑ましいお二人にはスタッフ一同羨望の眼差しが向けられた。       
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