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『藤峰です。新郎新婦様、ご準備できました』  パーティー開始十分前にはお二人はすでにリラックスした表情で談笑していた。カジュアルなパーティーのせいか、それとも三度目ということで慣れたのか、いい具合に肩の力が抜けている。  それを会場にいるであろう、志築くんにジャケットに付けたマイクで伝えるとすぐにイヤフォンから返事が返ってきた。  『志築です。了解しました。移動をお願いします』  お二人にお伝えすれば、小さく頷いた。  今、ジャルダンではハワイでの挙式の動画が特設設置した大きなモニターに流れている。  その動画が終わった後に主役の登場の流れだ。  「足元お気をつけください」  ここ、控室からジャルダンまで、どれだけゆっくり歩いても三分あれば余裕でつく。  会場スタッフの一人が、ご新婦様が転ばないようドレスのトレーンを持ちながら、新郎様がその支えになりながら、移動を始めた。  ロワに続く階段を降りる。スタッフのイヤフォンには裏で挙式が行われている様子も伝わってきた。一方、当たり前にブライダルフェアが開催されており、パーティーに関わっていないプランナー達は、新たな幸せのお手伝いをする為に邁進している。  そんな様子を耳から感じ取りながら、私はロワの扉の前で立ち止まった。  「前髪失礼します」  付き添うヘアメイクの担当者がご新婦様の前髪をちょいちょいと直す。  ドレスのトレーンを綺麗に伸ばし、ご新郎様の衣服の最終チェックをしていると、扉の向こうから大歓声が聞こえた。  『それでは本日の主役に登場してもらいましょう!皆様あちらの扉にご注目ください!』  抑揚をつけて大袈裟に煽る司会者、香月様。なんと司会は自分たちで引き受けると言ったのだ。身内のパーティーだし、匙加減も分かっているからその方がいいという。   「香月さん、、、」   「うん。楽しそうだな、あいつら」  お二人様が苦笑する。  そんなお二人に扉の前に立つスタッフが合図をすると、彼らは少し緩んだ表情を引き締めて、煌びやかな世界へと足を進めた。      
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