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 「「あ」」  会場の後片付けに奔走した志築くんと通常の業務が溜まり処理を終えた私は、更衣室を出て、玄関に向かう途中でばったりと出くわした。  志築くんは目が合うなり「おつかれさまでした」とふにゃりと力の抜けた顔で笑う。その表情には疲労感と達成感がはっきりと顕れていた。  「お疲れ様」  「はい、疲れました」  素直に認める彼に眉が下がる。  緊張と気疲れとイレギュラーな対応に奔走したのだ。仕方ないと言えば仕方ないけど、そう返ってくるとは思わなかったせいで何と返せばいいか分からない。  ただ、「先にどうぞ」と狭い玄関を譲られたので、有難く先に靴を履かせてもらうと、ヒールで疲労した足の裏に程よい感触が伝わった。    「じゃあ、お先に」  ここでもたもたしていると後ろがつっかえてしまう。  私は半分履いたスニーカーを歩きながら足の中に収めると、玄関の扉を開ける。  昼間は快晴で、夜七時を迎える今はほど良い夜空が見えた。夏が近づいているせいか最近は陽が長い。若干生ぬるい温度を楽しみながら、空を見上げた。その視線をスライドさせて、プリエールから徒歩数分にある地下鉄の駅を目指す。  明日も仕事、今夜は疲れたし早く寝よう。  そうぼんやりと思いながら、鞄からイヤフォンを取り出していると、後ろから足音が近づいてきた。  「峰さん」  振り返れば志築くんが足早に歩いてきた。当然だけど彼も帰宅する。  同じ方向だったのね、と思いながら手に持ったイヤフォンを鞄にしまった。    
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