エスプレッソ・アフォガード

②

　いつになくやけに饒舌な志築くんに少し面食らった。
　もう酔っぱらってるんじゃないかと思うほどだ。

　「峰さん」

　クゥン、キャウン。と切ない声が聞こえるのは気のせいかしら。
　私よりも背が高くて、体つきは男性なのに、言ってることは駄々を捏ねる子供みたいだ。いや、昔流行ったCMのチワワみたい。私を見下ろすその目はうるうるして“お願い”と言っている。

　「…私、疲れているの」
　「サク飯でいいですよ。明日も仕事ですし」

　ね？ね？と尻尾をぶんぶん振る志築くん。
　なんだか本当に犬に見えてきた。

　もしかして……と、ハッとして口を閉じる。
　これが本当の彼の姿でこんな風に彼氏に甘えているのかしら。

　漫画や小説は好きでよく読むけど私には男性同士の恋愛ものはあまり響かなかった。
　ただ、属性といわれるものがあることも、ウケとセメがあることは知っている。

　これが噂のワンコ属性…？！
　普段クールな彼の本性が実は犬系で多分ウケといわれるやつなのね。
　これぞ、ギャップ萌え。だからモテるのか。

　私は目の前でおうかがいを立てている志築くんを見上げて「なるほど」とひとつ頷いた。
　こんな風にせがまれるときっと彼氏さんも嫌とは言えないのだろう。
　実際私も「仕方ないなぁ」という気になってしまっている。
　彼がモテる理由は見た目よりも、天然の本性かもしれない。