4485人が本棚に入れています
本棚に追加
店内を見渡しながら、空いている席に腰を下ろすと、すぐにひとりの男性が近づいてきた。
「志築様でしたね」
「ええ。覚えてくださったんですね」
白髪交じりの髪をオールバックにした男性はダンディー雰囲気をまとっていた。
白のシャツに黒のベスト。この店のオーナーらしい。
「初めまして千崎です。ご来店ありがとうございます」
彼は私に簡単に挨拶をすると、おしぼりとメニューを置いてその場を離れてゆく。
その様子を見送ると、志築くんがクスりと笑ってメニューに視線を落とした。
「実は、香月様と一度お食事をご一緒させていただきました。その時こちらをご紹介してくださって」
プランナーがお客様と食事をするのは自由だ。
プリエールでは特に禁止していない。
「九条さんの会社がこの近くだそうで、お食事をしながら打ち合わせをしました」
「…そうなのね」
志築くんが「黙っていてすみません」と眉を下げる。特に悪いことはしていないので謝る必要はないのだけれど、共有していなかったのが心地悪かったらしい。
「何にします?飲み物は?」
「…なら一杯だけ」
メニューを広げた彼が「どれにします?」と訊ねてくる。いくら食事ができると言えど、形態がダイニングバーだ。お酒を頼まないのは失礼だと思い、一杯だけいただくことにする。
「何食べます?好き嫌いありますか?」
他、食事に関しては気になったメニューもそこそこに志築くんに任せた。
楽しそうに悩む彼を見ながら、店を見渡す。静かだが、適度に会話がある落ち着いた大人の店だと思った。
香月様達が通うのも頷けるいいお店だった。
最初のコメントを投稿しよう!