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 店内を見渡しながら、空いている席に腰を下ろすと、すぐにひとりの男性が近づいてきた。  「志築様でしたね」  「ええ。覚えてくださったんですね」  白髪交じりの髪をオールバックにした男性はダンディー雰囲気をまとっていた。  白のシャツに黒のベスト。この店のオーナーらしい。  「初めまして千崎です。ご来店ありがとうございます」  彼は私に簡単に挨拶をすると、おしぼりとメニューを置いてその場を離れてゆく。    その様子を見送ると、志築くんがクスりと笑ってメニューに視線を落とした。    「実は、香月様と一度お食事をご一緒させていただきました。その時こちらをご紹介してくださって」  プランナーがお客様と食事をするのは自由だ。  プリエールでは特に禁止していない。  「九条さんの会社がこの近くだそうで、お食事をしながら打ち合わせをしました」  「…そうなのね」  志築くんが「黙っていてすみません」と眉を下げる。特に悪いことはしていないので謝る必要はないのだけれど、共有していなかったのが心地悪かったらしい。  「何にします?飲み物は?」  「…なら一杯だけ」  メニューを広げた彼が「どれにします?」と訊ねてくる。いくら食事ができると言えど、形態がダイニングバーだ。お酒を頼まないのは失礼だと思い、一杯だけいただくことにする。  「何食べます?好き嫌いありますか?」  他、食事に関しては気になったメニューもそこそこに志築くんに任せた。  楽しそうに悩む彼を見ながら、店を見渡す。静かだが、適度に会話がある落ち着いた大人の店だと思った。  香月様達が通うのも頷けるいいお店だった。
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