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 食事中、志築くんは今日のパーティーについてよく喋っていた。  実はこんなことがあった、や、あんなことがあったなど教えてくれた。  彼はもしかするとただ話を聞いてほしかっただけかもしれないと思い、彼の話に耳を傾けながら相槌を打ちながら食事を楽しんだ。    「ご馳走様でした。でもよかったの?」  「いいんです。俺が無理に誘ったんで」  お会計は志築くんが出してくれていた。財布を出す間もなかった。  いつ支払ったのか気が付かなかった。  多分手洗いに立った時だと思うけれど、小説や漫画の中でよくあるスマートなお支払いを現実でする男性がいるとは思わなかった。  しかも、いくらだったかも教えてくれない。  目を吊り上げると「それほどの金額でもないですよ」とやんわりと濁された。  確かにお互い一杯だけ飲んで、あとは食事だけだった。  メニューに書かれた金額も良心的ではあるものの、私の方が年上だし、稼いでいるのになんだか申し訳ない気がする。  「その代わり、また付き合ってください」  志築くんが目を細めて笑う。  「…ちゃんと出させてくれるなら」  一応条件を付けてそう返せば、志築くんの目が一瞬だけ丸くなり、困ったように笑った。    
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