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 約束通り?本当に一時間ほどで食事を済ませると、私達は再び駅に向かって歩いた。空腹にアルコールを飲んだせいで少し回った酔いがいい感じに冷めていく。  「峰さん、どっちですか?」  「地下鉄?JR?」と訊ねてくる志築くんに「地下鉄」と答えて改札を潜る。すると何故か志築くんも同じく改札を潜った。  「俺もこっちです」  「そう」  「信じてませんね」  そんなことないわ、と首を横に振る。何故なら渋谷は沢山地下鉄が入り組んでいる。ここの改札から入ったとしても四路線も走っているのだ。  「最寄りどこですか?」  少し長い地下道をてくてくと歩く。  志築くんが隣を歩くと視線が集まってくる気がして少々居心地が悪い。  「三茶よ」  「え?!マジですか。俺も三茶です」  え?  志築くんの答えに思わず眉根を寄せる。  すると、「ほら」と定期を見せられて思わず半目になった。  「どうしてそんな顔するんですか」  「…休みの日も遭う可能性があるのね」  「峰さん、"遇う"ですよ。"遭う"って俺を厄介者のように言わないでください」  きゃうん、わぅん。と文句を言う志築犬。  さっきまで落ち着いたいつもの志築くんだったのに、今は本性をさらけ出している。こんな姿、坂巻さんが見たら目をハートにしそうね。  なんだったら、またプリエール内に周知の事実として皆が知れ渡ることになりそう。  「偶然遭っても声かけないで」  「どうしてそんな冷たいこというんですか」  「休みの日に会社の人に遭いたくないでしょう?」  「そんなことないですよ」  唇を尖らせて文句を垂れる志築犬はどうやら休みの日でも会社の人と会えるタイプらしい。  私はできるだけひっそりとのんびりしたいし、気づいても声をかけてもらいたくないのだけどこのワンコは言っても聞き分けがなさそうだ。      
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