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 両親は共働きで、ほとんど家にはいなかった。今も何の仕事をしているのか分からないけど、外国を飛び回っている。  幼少期は祖母の家に預けられて、過ごした。    中学生になる頃祖母が亡くなり、それ以降、家ではひとり。  時々帰ってくる両親はたくさんお土産を持って帰ってきたけれど、ここ数年は会ってない。   「……ただいま」    誰もいない自宅で一人ごちた。  こんなの慣れっこなのに、何故か祖母の面影を見て切なくなる。  こんな鉄の塊ではなく昔ながらの木造の家だった。祖母には大切な家でも、造りが優しくなくて、急な階段を上がった先にある部屋はほとんど使われてはいない家。  だけど、いつも温かかった。  どうしてこんなことを急に思い出したんだろうと我に返って彼のせいか、と溜息をつく。    なんとなく天井を見上げてこの天井のずっと上に住む彼のことを考えた。  さっき同じマンションだと知った時、『もしかして』と淡い期待してしまった自分がいた。    そのことに驚きながらも、何故期待してしまったんだろう、と自問する。  「……夢見過ぎね」  現実は小説より奇なり。  そうそう同じようなシチュエーションにはならないし、読者が望むような展開なんてない。  だけど、ここまでの偶然に不本意ながらときめく材料になってしまった。  志築くんに好意があるわけではなく、こんなシチュエーションには萌える、というやつだ。  ただ、シチュエーションに少し驚いただけで、彼とどうこうなるつもりはない。
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