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 こんな私にもたった一度だけ夢を見させてくれた時があった。  僅か三ヶ月という短い期間だったけど、恋人がいた。  大学生の頃なのでもう十年以上前のこと。  ひとつ年上の彼は優しくて大人びて、皆の憧れの的だった。だけど私には勿体ないぐらいの人だった。  どうして私なの、と戸惑いつつも告白されたことに舞い上がって受け入れた。  とはいえ、数回学食で食事をしただけでそれ以上何もしていない。  彼が友人に『つまんねえ』と愚痴っているのを聞いてしまったからだ。  その言葉がストンと腹に落ちた。  祖母が亡くなり、友人もいない私に会話が必要なものでなく、大学生になってしまった。  だから、先輩と話をしていても全部彼に丸投げして、自分からは何も話さなかった。  そっか。私、つまらないのか。  その当時、自分の見た目に酷くコンプレックスを感じていた私は、カラコン、アイプチ、つけまつげ、と三種の神器をフル活用していた顔をしていた。  後々、その顔が好みだったと知って落ち込んだ。  変なの、と思う。  綺麗に見られたくて、可愛くなりたくて、メイクを研究したのに、ツクリモノが好きだと言われて落ち込んだ私はきっと、本当の自分を好きになって欲しかったんだと気付いておかしくなった。    
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