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   「峰さん、飯行きましょう」  同じマンションだと知りあって一ヶ月。  志築くんはよくこうして食事に誘ってくるようになった。  お互いのプライベートの連絡先は知らないので、偶然会えばの話だ。  それなのに、なぜかバッタリこうして遭うのだ。シフト上、早上がり遅出などあり重ならない日が多いはずなのに変ね。  「昨日も行ったじゃない」  「いいじゃないですか」  「作り置きしているものがあるの。傷むから今日はなしで」  ちぇー、と志築くんが不貞腐れて唇を尖らせる。その横顔を盗み見てホッと肩を落とした。どうやら今日は諦めてくれたらしい。  「ちゃんと自炊してえらいですね」  「節約よ。食費ぐらいしかできないでしょ」  「他何に使うんですか」  「……老後資金」  仕事中は相変わらずクールでマイナスイオンを醸し出している彼だが、二人きりになると、天然の本性が出ている。  帰る方向が同じなので仕方ないけれど、今だってまだ納得してなさそうなのに、とぼとぼついてくる。  そんな彼の様子を見ていつ切り返してくるのかとハラハラしてしまう。    
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