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ちなみに、朝の出勤時もよく遭うようになった。さすがに毎日ではないけれど、シフトが重なる時間は家を出るタイミングが同じらしい。
朝から懐っこい笑みで寄ってくるのはいいけれど、犬を飼ったつもりはない。
「……わかりました。今日のところは諦めます」
全然諦めたような口調と顔つきではない。寧ろ何か「いいこと思いついた!」という顔だ。
彼は意外と表情豊かだ。目が雄弁に語っている。
「ちなみに、俺来月誕生日なんです」
電車がファーーンとホームに滑り込んできた。そのせいで彼の言葉の最後が聞こえない。
「プレゼントください」
「………どうして」
「どうしてって。だから誕生日です」
「おめでとう」
「まだです。まだ」
プレゼントほしい!くれなきゃ離れない!
わうん!きゃうん!
そんな目がじっと私を見下ろしてくる。
尻尾がパタパタ揺れている幻影が見えた気がした。
電車に乗り、吊革に捕まれば隣に志築くんが並ぶ。扉が閉まりゆっくりと発進して、平日の帰宅途中のスーツの波に紛れて潜んだ。
「……恋人にもらえばいいじゃない」
そうよ。彼氏はどうしたの。
一応沢山人がいるので“恋人”にしたけれど。
食事も誕生日も彼にもらえばいいでしょうに。
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