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 「それで、嘘ってどういうことなの」  「そのままですよ。カモフラージュです」  どや、と言い切るあたり、彼は全く悪びれていない。むしろ。  「お陰で仕事がスムーズで助かります」  とまで言いのけた。恐ろしい。  「……つまり、彼氏はいない、と」  「はい。彼女もいないですよ」  るん、と音符がつくのは気のせいか。  お箸をもったまま楽しそうににこりと笑う彼は、定食の漬物をぽりぽりと食べている。  「どうしてそんな嘘を」  頭が痛い、と思わず額に手をやると、対面の彼が綺麗な顔を歪めて笑った。嫌悪感丸出しの顔は彼が私に初めて見せたダークな部分だと思う。  「あんなにも目をギラギラさせた人の中で仕事って正気ですか。無理ですよ。鬱陶しい。それに俺にだって選ぶ権利はあるんです」  たしかに彼の言い分もわかる。  でも、誰でも彼でも遠ざけるのは違うと思う。  「まず、仕事をする上で必要以上に距離は縮める必要はないと思います。だから彼女達とは一線を引かせてもらいました。悪い人達ではないと分かっているのでそれでいいんです」  仕事上、それ以上に距離を詰めたくないという話らしい。  そしたら、これはなんだ。  私は聞いていいのかわからないまま彼の話の続きを待つ。  「実際、以前の職場でもありました。知らないうちに俺に彼女がいて、驚きましたよ。ってか怖い」  志築くんが、ブルリと震える真似をする。  つまり、過去の件も踏まえて彼は『男色』だと宣言することで日常の平和を保っているという。
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