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 「わかりました。こうしましょう!」  いいこと思いついた、と彼は目を輝かせた。  その顔は大抵いいことではないと頭の中で警鐘が鳴り響いている。  「冷蔵庫の中身の掃除、俺も手伝います」  ほら、やっぱり。  よく分からないことを言い出したよ、ワンコめ。  いいことでしょ?褒めて褒めて、と訴えるような目はやめましょう。 そんな目で見られても……う。何もでないわ。  「…心配しなくても、私ひとりで十分間に合います」  独り身の残り物のご飯が食べたい、だなんてやめてほしい。人様に食べさせるようなものは作ってないのよ。  「心配はしてません。ただ、峰さんの手料理を食べたかっただけです」  彼はキリッときた顔つきで堂々と言い切った。全然その顔で言うセリフではないと思う。  「まあ、それは次の機会にしましょう」  だけど志築くんはとてもあっさりと引き下がった。  なんだか、おかしいと思いながら言葉の続きを待つ。  だって、その顔は、絶対良からぬことを考えている。  そう、さっきの電車の中で見せた時のような顔だ。  「諦めて、明日は俺とデートしましょう」  「?!」  飲んでいたお茶を吹き出してしまったのは志築くんのせいだと思う。
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