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 「さっきの話ですけど」  同じマンションなので、どうしても同じ帰路になってしまう。途中、スーパーにでも寄ろうかと考えたけれど、彼もそのまま付いてきそうで諦めた。  「わかりました?何が繋がってるって」  志築くんは、同性愛者だと公言していた。  彼氏がいることも周知されている。  だけど、それは真っ赤な嘘。  彼が仕事上、円滑に進めるため。ひいては彼が自分の身を守る為だ。  仕事で付き合っていく上で、ある程度の距離感は必要だと話していた。  それなのに、私はよく食事に誘われる。  彼は一人で食べるのが嫌だと言っていたからその流れだと思っていたのに、何故かデートに誘われて……。  ?!  頭の中で整理していると、あるひとつの可能性が浮かび上がり、思わず足を止めた。  志築くんが、振り向き様に穏やかな微笑みを私に向ける。  「理解できました?」  「……全く、できないわ」  「そうですか。でも、すごく可愛い顔してますよ」  周囲は繁華街から離れたせいで、住宅が多かった。まだ人通りはあるものの、それほど多くない。  そんな中で彼は平然と砂糖一杯分の言葉を吐く。また次に口を開く時も、盛り盛りの砂糖が追加されそうだ。  「……俺のこと意識してくれました?」  「……っ!」  頬赤いですよ、と覗き込まれて思わず視線を逸らす。彼は愉快だと目を細めながら、私の手を取って歩きだした。  「なっ!?ど、ど、どうして」  「どうしてって明日の予行演習です。こうやって歩きますから」  「いやいやいや、何を」  「今更何を言ってるんですか。暇でしょ。籠ってるならデートしてください。俺は峰さんと過ごしたいんです」 _____俺にだって選ぶ権利はあります  志築くんの言葉が脳裏に響いた。  さっきから自分の身に何が起きているか全然わからない。        
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