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 反論ができなかった。ただ、俯くしかなかった。だって、私は恋なんてしたことがない。  だから、彼のいう“理屈じゃない”という言葉に頷くことができなかった。  情けないけれど過去に『つまらない』と言われて納得した部分が大きかった。自分はつまらない人間だと自分でも思った。それもあり、恋愛はもう二次元の世界での夢物語だと割り切っていた。  そのくせその夢を諦めきれずに、安直にブライダル業界で仕事をしているけれど、この年まで、異性と手を繋ぐことも、キスもしたことがない。  もちろん、それ以上のことも。  私の人生、縁がないと思っていたから。  「……私と居てもつまらないわ。志築くんの……時間の無駄よ」  「俺は峰さんと居て楽しいからこうして何度も食事をしているんです。つまらなかったらこんな話ししません」  「……もっと綺麗で愛想よくて立ち回りが上手い人の方が」  「十分綺麗です。人より少し不器用かもしれないけれど、そんなところが逆に好感が持てます」    _____?!  彼の切り返しに戸惑い困惑する。  下手なホストより誑し込むのが上手いんじゃないかしら。ホストなんて行ったことないけれど。  「本当はいつももどかしく思っているんじゃないですか。そんな峰さんを見ているとなんだか時々無性に抱きしめたくなります」  だ、抱きしめたく……?!  「分かりにくいかもしれないですが、峰さんは、ちゃんと笑うし、怒るし、驚いているでしょう?今だって俺にこんなこと言われて戸惑ってる」  「……笑ってる、の?私」  「ちゃんと笑ってます。プリエールの人達はちゃんと分かってますよ」  ちゃんと見てるよ、と言われているようで恥ずかしくなった。だけど、それと同時に言いようのない喜びと照れ臭さが溢れてきてなんと返せばいいか分からない。  
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