4485人が本棚に入れています
本棚に追加
志築くんは少しだけ眉を下げて目を細めた。
まるで、小さな子どもを心配する親みたいだ。
「もう一つ言うと、峰さん、悪い人に騙されるタイプですよ。こう言っちゃ失礼ですけど、扱いやすそうですから。純粋ですし」
「……騙されるタイプ?」
「ええ。雛鳥と同じです。初めて見た生き物を親だと信じるのと同じで、恋人になれば凄く尽くしそうです。危険なぐらい」
「………騙されるような恋愛はしてないわ」
今までもたったひとりだけ。しかも学食デートしかしたことがないもの。
社会人になって仕事に邁進してきた。
沢山のお姫様をお見送りしてきたけど、考えてみれば、ブライダル業界って完成されたお二人の祝いの場であって、出逢いの場ではない。
プランナーに独身が多く、出会いが無いとぼやくのは必然のこと。
それに、ここは女性社会。
和気藹々として楽しいけれど、私みたいな人間はその場に入れない。
そんなキャラじゃないし、誘われてもどう振舞えばいいのか分からなかった。
「なら、間に合ってよかった」
何が、と言いかけて固まった。
スローモーションで近づいてくる志築くんの顔がゆっくりと傾く。
「ついでに、俺に騙されてください」
_____耳元で囁かれた瞬間。
頬にちゅ、と柔らかい刺激が走った。
それが、志築くんの唇だと気づくのに、そう時間は掛からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!