14/40
前へ
/211ページ
次へ
 「俺は好きな人ができれば、傍にいたいし、いればいたで、くっつきたい。こうしたスキンシップも……今は抑えていますけど、慣れて欲しい」  志築くんは繋いだ手を持ち上げると手の甲に唇をつけた。まるで、忠誠を誓う騎士様のように見えて、ドキッとする。  「……今の話を聞いて嫌だと思いました?」  志築くんの話に嫌な部分はなかった。  自分の身に起きたことがないから、その気持ちはわからないけれど、好きな人ができれば誰だってそうなると知識として知っている。  「まずは、お互いのことよく知りませんか。俺は峰さんのこと、だいぶ知ったつもりですけど、意外と知らないことが多いと気付きました。誕生日とか家族構成とか、基本事項諸々知りたいです。そういうの、明日ゆっくりデートしながら教えてください」  何故だか分からないけど、私は彼の言葉に頷いてしまった。彼の言葉に全然拘束力はないのに、不思議だ。  この手も、軽く握られているだけで解こうと思えば解けてしまうほど優しく包まれている。  それなのに、振り解こうという気すら湧いてこなかった。    「嬉しい」  その時の志築くんは本当に嬉しそうな顔で笑った。こちらが照れるぐらい花が綻んだような綺麗で優しい笑みだった。  こんな人とデート、するの?私。  と自問自答してみる。  だけど答えは返ってこない。  この現実を受け入れるのが難しく、呆然とする私の手を引いて彼は歩いた。  数メール先マンションのエントランスを潜ってエレベーターに乗り込む。  三階のボタンを押して扉が閉まると、彼は再び優しい笑顔で私に念押しした。  「明日、10時。楽しみにしてます」      
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4485人が本棚に入れています
本棚に追加