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 考えてみれば、デートというデートはしたことがなかった。それに、今思うと学食で食事って最早デートというのか分からない。  当時は先輩と食事をするだけでも緊張して全然話せなかった。元々口下手でコミュ症の上に乗っかった緊張。彼には本当に悪いことをしたと思う。  「どうしたらいいの」  いきなり「さあ明日デートです」と言われてもどうしたらいいのか分からない。  せめて一週間、時間が欲しかった。  「……何を着ればいいの」  クローゼットを開けて溜息を吐く。  そこで、自分が思ったよりもデートに浮かれていることに気づいて両手で顔を覆った。  やっぱり流されている感は否めない。  彼に直接言葉にして「好き」だと言われていなくても、あの嬉しそうな顔を見せられたら、誰だって勘違いしてしまう。  わんこだから、と甘やかしてしまった部分もあるけれど、彼はやっぱり男性だった。  その証拠にまだ、手を包み込んだ温もりも感触も覚えている。  それが、男性特有の硬さをもつものだということも、なんとなく理解した。  女性の手はもう少し柔らかいものだ。  「………デートって何をするのかしら」  志築くんは明日のことを詳しく教えてはくれなかった。  ただ、10時にと言われた。  何をするのにも合いそうな靴と服を考える。  どれだけ悩んでもクローゼットの中は変わらないので、諦めて扉を閉めた。  
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