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 電車に乗って数駅、駅の名前は知っていたけど、志築くんが降車したのは初めて降りる駅だった。  東京に十年ほど住んでいるけど、考えてみれば殆ど家と会社の往復で一度も降りたことがない駅はざらにある。  「何観ます?」  本日は平日で、割と空いているらしく、どれも一番近い時間で入れそうだった。  ドラマの劇場版から始まり、洋画サスペンス、ラブロマンス、ファンタジーアニメーション、バトルアニメとジャンルも様々。偏っていない。  「俺はこれか、これかな。あ、こっちでもいい」  志築くんが選んだのは、ドラマの劇場版、洋画サスペンス、ファンタジーアニメーション。  ファンタジーアニメーション映画は映像がとても綺麗だと誰かが言ってた気がする。  「そういえば、これ島谷さん観たって言ってたような」    私の心を読んだように志築くんが呟く。  彼女が「もう一回観たい!」とゴリ押しだったことも彼の呟きで思い出した。  「これにします?」  「……他いいの?」  「はい。また来ればいいんですから」  そっか、と思ってハタと気づく。  それは誰と来るつもりなんだろう、と思ったけれど彼に訊ねることはできなかった。
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