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 お昼時より一時間ほど時間が早かったこともあり、すんなりと席につけた。  ランチメニューは少し悩んだ結果、お好み焼きと海鮮塩焼きそば。  ソースの香ばしい香と魚介類沢山の焼きそばをサクサクと食べ終えると、上映時間5分前に映画館に戻った。  「映画館で映画観るの久しぶりだなあ」  彼は片手にドリンクを持ちながら指定席を探して劇場を歩く。「あ、ここだ」と小さく呟きながら、そこに腰を下ろした。  私も彼の隣に腰を下ろすとドリンクホルダーに今買ったばかりの飲み物を入れる。  「彩羽さんは最後にいつ映画館にきました?」  きっと彼は何気なく訊ねたんだろう。  だけど、私は記憶にある限り、映画館に行ったのは二回だけしかない。  一度目は、小学校の行事。それも、流行りの映画とかではなく、とても古い映画だったことは覚えている。  二回目はおばあちゃんと。どうしても観たい映画があってついてきてもらった。ただ、どちらも小学生の頃で、もう二十年ぐらい映画館から疎遠になっている。  大人になって、いくらでも行けたはずだけど、行く機会もなかった。    「………12歳の頃かしら」  「わかりました。これから毎月映画館にいきましょう」  彼は若干苦笑しながら膝の上に置いた手に手を伸ばした。上から包み込まれた手に視線を落とすと隣から覗き込んできた顔を見上げて少しだけ戸惑う。  「……これからは、たくさん、俺と楽しいことしましょう」  ね、と付け加えられた言葉尻を聞きながら「どうして」と思う。  どうして彼はこんなにも私を気にしてくれるんだろう。  もっと他に沢山いい人がいるのに。  『選ぶ権利がある』と彼は言った。  つまり、その権利は私にもある。  「どうして私なの」と、聞きたいような聞きたくないような質問が口から飛び出そうになる。  だけど、そのタイミングで場内アナウンスが響き、室内の灯りが静かに落とされた。  膝の上で握りしめた手を包んでいた手がそっと離れていく。  冷めていく温もりを少しだけ寂しく感じながら、これから始まる物語に集中しようと頭を切り替えた。
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