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「シェリーナが自分の気持ちに気づいたシーン良かったですね。巻き戻してもう一度観たい」
映像ではザッと風が吹いて彼女の鮮やかな緑色の瞳に王子が映ったシーン。
描写がとても綺麗だった。
恋をする、とはきっとこういうことなんだ、となんとなく想像ができた。
「エンディングもよかった」
志築くんの感想に小さく頷く。
彼の表情はまだ映画の余韻を残しているらしく、しみじみと惚けたようにぼんやりとしていた。
「……彩羽さんは、これまで何人の方とお付き合いされました?」
不意に投げられた質問に対面から窺う様子の彼を見つめ返した。
あれ、そんな話今してたっけ。
と言いたくなったものの、じっとりとした視線に仕方なく答える。
「…ひとりね」
カウントしていいのかわからないけれど。
「……いつですか」
「大学生の頃」
そっか、と志築くんが俯く。
話の意図が分からなくて首を傾げた。
「ご家族は?」
「兄弟はいないわ。両親は……何してるのかわからないけど生きてはいると思う」
微妙な回答に形の良い眉がへにょりと下がる。きっとどう反応すればいいのかわからないのだろう。
「……寂しくないですか?」
「…分からないわ。当たり前のことだから」
両親と過ごした記憶は殆どない。
昔からとても忙しい人達だった。
二人とも仕事が好きらしく、殆ど家にいなかった。
昔はそれが寂しいと感じたけれど我儘は言えなかった。いつの間にか大人になり、そんな気持ちもどこかにいってしまった。それが普通で当たり前の日常。
だから、誰かと一緒にいる方が変な気がする。
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