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 物持ちがいい、と上手い表現をしてくれたけれど、要は時代に乗り遅れている残念な人間なのだ。  そして、それを「残念」だとは思わないし、変える気もない。  変えたところで連絡を取る人間は同じ。電話帳の中身は変わらないのなら、変える必要もない。ただ、無駄に高いお金を払うだけ。  そう割り切っているけど、大抵人から失笑される。  「じゃあ、メールアドレス教えてください」  だけど、志築くんは少しも見下さなかった。馬鹿にする素振りを見せなかった。  驚いたような顔はしたものの、ただそれだけ。  支配人なんか「生きた化石だな!」とかとっても失礼なことを抜かしやがったのに。  「……笑わないの?」  「どうして笑うんですか」  志築くんがきょとりとする。  「何を選ぶかは自由でしょう?その携帯で不都合が有れば買い替えをお勧めしますけど、特に不都合がなければいいんじゃないですか?」  彼は私のガラケーを持つと「懐かしい」と笑みを浮かべながら、テキパキと自分のメールアドレスを私の携帯に登録していく。  カチカチと場にそぐわないクリック音が止むと、彼は携帯を返してくれた。  「空メール送ってください」  「うん」  「……あ、届いた」  やった、と志築くんがとても嬉しそうに笑う。ただ、メールアドレスを教えただけなのに。たったそれだけでそんなにも嬉しそうにされると胸がくすぐったくて恥ずかしくなる。    
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