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「俺、学生の頃、ラヴィーナでバイトしてたんですよ」
ラヴィーナとは、八神グループが経営するレストランのひとつだ。ここは、ウェディングパーティーもできる、カジュアルなレストランとして人気がある。
そして、以前私が八神の本社にいたときにラヴィーナの経理担当だった。
食材の仕入れだったり、請求書を作ったり、主にお金の管理部門である。
「彩羽さん、休みの日、よくパーティーを見に来てましたよね。しかも影からこっそり」
そう。今でこそラヴィーナは全国に三十箇所程あるけれど、十年程前の当時は、まだ出来たばかりのホヤホヤの事業だった。
そんなラヴィーナの管理部門に配属された私は、上司の許可の元、休みの日は『趣味』と押し切ってレストランウェディングの様子を見に行っていた。
「初めは“変な人だな”って思ってたんですけどね」
志築くんは「すみません」と俯きながら謝罪の言葉を述べた。それに対して私は小さく首を横に振る。
「……滅多に笑わない彩羽さんが、時々見せてくれる純粋な笑顔が……なんというか、こうグッときて」
ここが、と彼は自分の左胸を指す。
僅かに俯いた顔がきもち正面を向く。照れ臭そうに綻ばせた表情に今度は私が俯く番だった。
「無自覚かもしれないですけど、彩羽さんは新婦さんを見ると目がキラキラ輝くんです。年上の貴方にこんな言い方失礼かもしれないですけど、少女のようでとても可愛らしい人だな、って思いました」
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