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 角砂糖二つじゃ足りないぐらいの糖分。そして、吸収しきれないぐらいの甘い視線に居心地が悪くなる。  顔をあげたくてもあげられない。  あげなくても分かるほどじっと見つめられている気がする。多分気のせいじゃないはず。  「実は一度だけ声をかけたんですよ」  「…….え?」  「お飲み物をお持ちしましょうかって」  ……あ。  言われてから、声をかけてもらったことを思い出した。あれが志築くんだったんだ、と思ってもまともに顔を見た覚えはないので、全然覚えていない。  ただ、当時は本社の人間が、わざわざ休み返上して視察に来ること事態稀だった。  おまけに管理職ならともかく、社会人二年目や三年目レベルの人間だ。ぺーぺーのぺーがきっと「何しにきたんだ、邪魔だ」なんて思われていたんだろうな、と思っていた。  なのに「飲み物もってきましょうか?」って聞かれて驚いたのは覚えている。  「……鞄からマイボトル出されて断られたんですけど」  「……ごめんなさい」  「いえ。でも、“ありがとう。今度はいただきます”って。少しだけ目元を和らげてくれたのが分かったので、……なんか、………ちょっとだけ内側に入れてもらった気がしてすごく嬉しくて」    志築くんの言葉に表情に、つられてこちらまで熱くなる。発火しそうになった時、彼は照れを隠さないまま頬をポリっとかいた。  「……なんというか、野良猫がちょっとだけ懐いてくれた感じですか」  「………」  「早く飼い猫になってほしいんですけどね」  熱った身体がスーッと冷めていく。  だけど、怒りも呆れもなく、なんだかとても複雑だった。        
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