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 「だから再会した時は嬉しかったんです」  「……そう」  「はい。全然変わっていなくて安心しました」  それは褒められているのか、貶されているのか少し微妙なところだ。  思わず顔を顰めたせいか、彼はクスッと笑う。  「花嫁さんを見て目を輝かせる顔は今も少女のようですよ。あの頃より幾分取り繕ってはいるようですけど、何も変わっていないです」  彼は少し前のめりになって下から私を見上げた。その表情はどこか揶揄いを含んでいる。  とても愉しそうだ。解せない。  「強いて言えば、当時より表情が分かりやすくなりましたね。あとは、落ち着きが増しました」  「……年を取ったんです」  「違いますよ。余裕、ですよ」  彼は笑う。屈託なく、子供みたいな笑顔を咲かせて言い切る。  「ほら、男性でも余裕のある人って良く見えたりするじゃないですか。女性も一緒です」  「錯覚」  「違いますよ。彩羽さんは良い女です」  良い女なら恋人いない歴イコール年齢にはならないだろう。  だけど志築くんは私の考えを見透かしたらしく顔を顰めた。  「男に見る目がないだけです。彩羽さんのことを知ればきっとモテモテです。でもダメです。誰にも知られなくていい。俺が知ってるから、今まで通り隠し通してください」  隠すつもりもなければ晒すつもりもない。  これが素で、悲しいかなどうすればいいのかも分からない。  もうひとついえばモテたいとも思わない。  もう少し欲があれば良かったんだけど、そういう方面は疎い自覚がある。  「俺だけの彩羽さんでいてください」  にっこり笑う彼に問いたい。  いつ、貴方のものになったんだ、と。  契約書出してちょうだい。
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