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 「あまり情報を教えてくれなかったのよね」  いつもなら履歴書なり職務経歴書があるはずなのに、今回に限って支配人はないと言った。「社長にくれって言っとくわ」と言ってたけど、あの様子じゃ、十年待ってももらえないだろう。  あとは。  「会ってみればわかる、か」  プリエールではプランナーにアシスタントをつける。  プランナー3人、もしくは2人に1人のアシスタントだが、彼の場合何故か私が付くことになった。  私はコントローラーというポジションで一般企業でいえば役職持ちだ。  館全体の指揮をする支配人の補佐に加えて、チーム全体のとりまとめを行う。  要はプランナーを補佐することはなかった。  なのに何故か支配人が私を指名した。理由を問えば会えば分かるという。  裏を返せば「自分で理由を探せ」とのことだ。  そんなこと、分かるはずない。  と思っていたけど、一目で分かってしまった。  「志築智紘(しづきちひろ)です。お世話になります」  第一印象は「イケメン」だった。まるで漫画の世界から出てきた王子様。いや、騎士様かな。  王子様のような煌びやかさはないけど、洗練されたオーラというか纏う雰囲気がそれだった。  あの漫画のワンシーンを思い出して少しだけドキッとする。  「…藤峰彩羽です。よろしくお願いします」  社会人を十年もすればこれぐらい言えるようになった。  ただ、表情筋を時々忘れるらしく支配人から時々指摘が入る。  「あー。峰、あ、藤峰だが愛想はないが悪い奴ではないんだ」  ニコリともしていなかったらしい私に支配人が「どこ行った、表情筋」と茶々を入れる。  微笑んだつもりだったけど、どうやら相手を困惑させたようだ。  「これが普通です。怒っていません」  私は慌てて付け加えたけれど、志築さんは困ったように眉を下げるだけだった。  
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