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志築くんは私の返事を待つことなく、品川にするか、池袋にするか、はたまた隅田水族館にしようか、と悩み始めている。
水族館か。
確か、小学生のとき行ったことあったかな。
ぼんやりと過去の記憶を辿ってみたけど、とてもうろ覚えであまり覚えていない。
少なくとも、大人になってから水族館は行ったことがない。
「それとも、買い物とか美術館とか行きます?」
「……その前に次があるの?」
そう。そこだ。当たり前のように「次」の約束を取り付けられそうになった。
もちろん、彼の気持ちは有り難く思っているけれど、当の本人がいまいちピンとこない上、戸惑い過ぎて既にさっきの出来事を頭の片隅に追いやろうとしている。
「俺の話聞いてました?一応彩羽さんが困らない程度に好意を伝えているつもりなんですけど」
ちょっとだけ剥れた彼はその顔を隠すこともなく、目を細める。「うっ」と言葉に詰まればさらに追撃がきた。
「……聞きますけど、休みの日何してるんですか。いつも固定で休みにしていますよね。仕事上、一番支障のないように休みをいれてるんだと思いますが、出かける予定とかあるんですか」
「あ、あるわ」
「へえ。どこに?」
興味津々な志築くんの顔から目を逸らす。
私が行くのはせいぜい、スーパーと美容院とネイルとマツエクぐらい。
一応ブライダル業界に勤めているのだからその辺りはちゃんとしようとプロの手を借りている。ただ、それも一ヶ月に一度ほど。
しかも一日で全て終わるので、それほど時間はかからない。
「……カフェとか」
そう。捻り出した答えに彼は笑った。
馬鹿にした笑いではない。けど、捻り出したことがわかったらしく少しだけ恥ずかしくなる。
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