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 志築くんはクスクスと笑いながら居た堪れず小さくなった私に表情を綻ばせた。  「カフェ、いいじゃないですか。カフェで何をするんですか」  特には何もしない。ただ、ぼうっとしたり、本を読んだりその時の気分でのんびりと時間を過ごすだけだ。  ちなみによく行くお店はカフェというより、喫茶店、という方がしっくりくる。  皆が好きな〇〇フラペチーノやアレンジ盛りだくさんの人気ドリンクではなく、豆や茶葉で勝負している。最早見た目じゃない。質で勝負だ。  それに静かでとても落ち着くのだ。私にとって憩いの場所だった。  「…本を読んだり、あとはぼんやり。人の会話に耳を澄ませたり」  「へぇ。素敵な過ごし方ですね」  志築くんはそれだけ言うとあっさりと引き下がった。てっきり「俺も行きます」とか言ってくるのかと思って拍子抜けしてしまう。  「ひとりで過ごす時間は必要ですよ」  志築くんが苦笑する。そのあたりの理解は一応あるらしい。  「ただ、そうですね。四十八時間のうちの四分の一でいいんです。俺にくれませんか。一緒に楽しいことしましょう。ね?」  彼は柔らかく微笑んで目を細める。それなのに有無を言わせないような圧を感じるのはなぜだろうか。
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