38/40
前へ
/211ページ
次へ
 「来週ですけど、ひとつお願いがあるんです」  その夜は、浅草の歴史ある洋食屋さんで夕ご飯を食べていた。アツアツの鉄板に肉汁がこぼれ落ちそうなほど出てくるハンバーグ、目玉焼きとナポリタン。子どもが大好きなメニューを目の前にした志築くんが翌週の話を始めた。  「……内容によるけど」  結局なんだかんだ、この三週間は彼にプランを任せきりだった。毎度朝の十時頃にマンションの下で待ち合わせて夕食を食べて別れる。  ただ、彼は、まめにメールをしてくるし、仕事上で顔を合わせるためあまり話すことがない。と言ったら凄く怒られたけれど。  「俺、来週誕生日なんです」  そういえばそんなこと言ってたわね。  一ヶ月前ぐらいのことを思い出して話を促した。  「彩羽さんの手料理が食べたいです」  ごはん、ちょうだい!わんわん!  目をキラキラさせて尻尾をブンブン振る志築犬はプレゼントに手料理と声を上げる。  「……人に食べさせるようなものは作れないわ」  料理は嫌いじゃない。ただ、生きていく上で必要最低限であり、あくまで自分の食事に適ったものしか作らない。つまり、レパートリーが少ない。  「大丈夫です!なんでも。卵焼きでも、おにぎりでも」  彼は私が自炊することを知っている。  だからきっとハードルを下げるために言ってくれているんだろうことは分かる。    
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4482人が本棚に入れています
本棚に追加