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ランプを持ったネズミ君が、後ろに下がった。
扉を開けると、竹竿を構えて鉄子が踊り込んだ。
「てやんでぇ!」
自称福岡出身の少女の言葉の意味は不明だが、威勢はいい。
僕も負けじと剣を構えて、遅れないように入っていく。
ネズミ君のランプがサーチライトのように部屋の中を照らす。
部屋だ。それも狭い部屋。
外から見えた二つの扉は、中で繋がってはいない。
ここはおそらく、特別に誂えた部屋。ある機能を持たせた、必要不可欠な。
その機能を持った空間に、僕は馴染みがあった。必ず一日に何回かお世話になる場所。
「ネズミ君、入ってきて!」
なんだなんだと、照明係が入ってくる。
「こりゃあ、マジかよ」
ネズミ君も危うく出っ歯が引っ込みそうになるくらい驚いた。
「やだぁ、あたし何やってんの」
鉄子は両腕を抱えてゾワゾワっと体を震わせた。
意外と乙女だな。
「ゆ、勇者さん!あそこ光ってます!」
いつの間にか入ってきていた妙子。
誰かいる!
すると、ジャーッと水が流れる音がして、扉が開き、良く知った顔が現れた。
独出進君は、決まり悪そうな顔で、本来ここにいるはずのない女性二人をチラチラ見ながら、ちゃんと手を洗って出て行った。
「独出君、ごめん」
追いかけていって謝る。独出君は、じゃあ、と手を振って、僕らがさっきパスした扉を開けて消えていった。
教室で会ったらまた謝ろう。
「まさかなぁ。ダンジョンに男子トイレがあるとは」
「う〜、あたし何やってんの。妙ちゃん、早くこんなとこ出よ!」
「はい!」
意外と妙子は平気だな。
せっかくなので、僕とネズミ君は用を足していくことにした。
「よく考えてみたら、学園側としちゃ俺たちに異世界に行ってもらいたくてこのダンジョンを造ってんだもんな。トイレぐらいあってもおかしくないよな」
ネズミ君は妙に納得した。
今度は僕らは奥の扉に取り掛かった。
「やっぱりよ、こっちが男子トイレってことは、こっちはアレか?」
と、ネズミ君。
「それ貸してちょうだい」
鉄子がネズミ君からランプを受取る。
ドアを開け、中に入っていった鉄子だったが、しばらくすると微妙な表情で出てきた。
「やっぱり女子トイレね。妙ちゃんはいい?」
「はい、大丈夫です!」
閉まるドア。しばらく待機か。
ランプは鉄子が中に持っていってるから、外は暗闇である。
「きゃあぁーーーーーーーー!!!!」
そのとき、耳をつんざく悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあ、きゃあ、きゃあああーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
女子トイレの中だ!ってことは、この悲鳴は鉄子?あの鉄子?
「鉄子さん!どうした!?何があったの!?」
ドンドンドン!と扉を叩いた。しかし中に入っていいものやら。
「ひゃあ、た、助けて、助けて、誰かぁーーーー!!」
一瞬みんなで顔を見合わせたが、躊躇している暇はない。
女子トイレに踊り込んだ。
「鉄子さん!大丈夫!?」
ランプの光は手前から三番目の個室から漏れていた。ドンドンドン、と乱暴に扉をノックする。
「ひぃいい、来ないで、来ないで!助けて〜!」
「鉄子さん!鍵を開けて!」
「ぅひぁ!来ないで、勇者さん!助けて!来ないでぇ!」
どっちなんだよ。
「鉄子さん、妙子です!開けてください!」
「妙ちゃ、待って、待って、今行くから、開けないで!う、うわっ、うひぃぃぃぃ〜!」
ガバッと扉が開いて、血相を変えた鉄子が飛び出してきた。
「あ、あれか?」
天井あたりを、ユラユラと白っぽく光るものが飛んでいた。
おかっぱ頭の、小学校三年生くらいの、少女に見える。
「ゴースト、か」
こんなところで戦闘か。
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