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赤い吊りスカートにおかっぱ頭。まるで学校の怪談に出てくるようなゴーストは、僕らを見下ろしてニタニタと笑った。
ゴーストは僕らを見下ろしてニタニタ笑っている。
鉄子は怯えている。
ネズミ君は様子を見ている。
妙子は様子を見ている。
勇者は剣を構えたままじっと敵を睨んでいる。
ゴーストは僕らを見下ろしてニタニタ笑っている。
鉄子は怯えている。
ネズミ君は様子を見ている。
妙子は様子を見ている。
勇者は剣を構えたまま…。
あのね、早く降りてきてくれないかな、このゴースト。届かないんだけど。
そうだ!と、ある考えを思い付いた。僕は剣を鞘に収め、右手を上に上げると、ゴーストを手招きした。
「ほら、お嬢ちゃん、花火やるよ!」
なになに?花火やるの?と、ゴーストが降りてきた。フフフ、小学生の女の子を騙すのなんてチョロいぜ。
「熱いハートの目を覚ます、火傷するよな一目惚れ。砂漠の海の熱帯夜、堕ちた太陽燃え上がれ。フエゴ!フエゴ!バモスフエゴ!出でよ、火の玉!」
恥ずかしい呪文を唱え、ボワッと火の玉が出現する。
わああ、と、無邪気な顔で、火の玉を見つめるゴースト。
と、引き付けておいて、スラリと剣を抜き放ち、よっこらせと振りかぶっては、袈裟懸けに振り下ろす。
スカッ。
「あれ?」
剣は手応えなく空を切り、おっとっとと、その重さにつんのめりそうになった。
今度はヤアッと裏袈裟に振り上げる。バキッと音がして、剣はトイレの個室のドアにめり込んだ。
…学校の備品壊しちゃった。
そのうちに、シュルシュルシュルと火の玉は勢いを失って消え、ゴーストは拗ねた顔になった。
…ねえ、怒ってる、かな?
怨めしそうな顔で僕を見上げるトイレのゴースト。背筋にゾクッと冷たいものが走った。
「うわっ!」
急にゴーストは突進し、真正面から僕の体を突き抜けた。
ゾゾゾゾゾゾゾワッと、まるで生命力を吸い取られたかのような衝撃が走っ、走っ、走っ。…おや?なんともない?
「きゃあああ!来ないで、来ないでーーーー!!」
振り向けば、今度はパーティの危機。
「くそっ、来るんじゃねえ!このっ!」
ネズミ君がブンブンと細長い手を振り回すが、ゴーストの体を擦り抜けて宙を掴むばかりだ。
ゴーストはしばらく鉄子の前でニタニタやっていたが、そのうちに飽きたのか、すうーっと壁を通過して、どこかに行ってしまった。
あれ?トイレに縛り付けられているんじゃなかったのか!?
「はあ、はあ。フーッ、消えたな」
ネズミ君が額の汗を制服の袖で拭う。鉄子はまだガタガタ震えていた。
「おい、勇者、大丈夫だったかよ。お前、体は無事か?」
「うん。生命力を吸われるのかと思ったけど、何ともないみたいだ」
「俺もつい手を伸ばしちまったけど、触った感触が全然しなかったな。攻撃してこなかったし、あのゴースト、実害がないのかもしれんな」
戦士は足腰に大きなダメージを受けたようだが。妙子もゲンちゃんを抱き締めてワナワナと震えている。
「わ、私、オバケなんて初めて見ました!小学生の頃、会いたくて何度もノックしたんですけど!」
どうやら興奮の種類が違うようだった。しかし、鉄子がオバケが苦手だったとは。
頼みの戦士がこれでは戦えない。
今日はここまでにしておこう。
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