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ただ、ティアリスにどうにかできることでもない。何度も言うが、相手は自国の王子様なのである。
「ほら、髪の毛の色も瞳の色も違いますし、声や体型も違うでしょう? 足のサイズが二〇センチメートルくらいの女の子を当たっていけばきっと見つかりますよ!」
「髪はウィッグ、瞳はカラーコンタクトでしょう? 声はあの日は聞かせてくれなかったから分からないけれど、体型はこのくらい……いや、胸は少し盛っていたのかな?」
……こいつ、年頃の娘に対してどれだけ失礼なことを言っているのか自覚しているのだろうか。
(いや、完全に無意識ね。自分でそう見えるようにしているとはいえ、面と向かって言われると死ぬほどむかつくわ……)
ティアリスは今現在地味色のウィッグとカラーコンタクトをしていて、胸は特注のコルセットで小さく見せている。つまり、レミリオの推測とは全く正反対の状態だ。
「あの、本当に私ではないのです……!」
「今日はお化粧していないのかな? 僕は舞踏会のときの方が好きなのだけれど……」
……駄目だ、本当に話が通じない。
これだけ否定しても何も態度が変わらないということは、レミリオの誤解が解けることは無いだろう。そして、レミリオは『薔薇の君』を何としてでも婚約者にしそうだ。
(ほんと、脳味噌入ってるのかしら。王子様の婚約者とかこの世で一番めんどくさそうな役職に着くなら、田舎の貧乏貴族に嫁いだほうが一〇〇倍ましだわ)
ただ、一介の公爵令嬢であるティアリスには断ることが出来ないのも事実。
「あの、何日か待っていただけますか? そうすればルミエール公爵家の名に懸けて『薔薇の君』を探し出して見せます」
「……そんなに僕がいや?」
レミリオのまとう空気がひゅっと鋭くなったのが分かった。反射的に離れようとして、
そういえば手をつかまれていたことを思い出す。
「僕には身分もお金もあるから、大抵のことはかなえてあげられるよ。僕の何が駄目?」
その身分と考え方が嫌いです、とは口が裂けても言えず、ティアリスは押し黙った。顔から微笑が抜け落ちているのが分かる。
このままでは駄目だともう一人のティアリスが訴えているが、本当にどうにも出来ない状況だ。護衛のアリスでさえも動けないでいる。
(怖い、誰か……助けて!)
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