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ティアリスには兄が三人いる。
一人目は、二四歳のクリス・ルミエール。
クロマティと同じ金髪に琥珀色の瞳で、柔和な雰囲気の漂うイケメンだ。見た目どおり性格も優しく、よくティアリスにかまってくれるいいお兄ちゃんだ。
二人目は二〇歳のキース・ルミエール。
アマンドと同じ黒髪に青い瞳で、怜悧な雰囲気の漂うイケメンだ。無口でほとんど言葉を発しないが、その分スキンシップで愛情を伝えてくれる可愛いお兄ちゃんだ。
そして三人目が、一八歳のミリス・ルミエールだ。
ちなみにティアリスは一六歳で、末っ子ながら唯一の娘である。
「おーい、ミリスー?」
掛け布団を引っぺがし、肩をたたきながら声をかける。
「んぁ……さみぃ、誰だよお前ぇ……」
「……あなたの妹ですけど」
寝ぼけているらしいミリスの顔を覗き込み、そう声をかけると――――
「え、ティアリスかっ!」
さっきまでのぽや~っとした受け答えが嘘のように飛び起きた。
ミリスは、ティアリスと同じ金髪に青空色の瞳で、中性的な雰囲気の漂うイケメンだ。
「確かに顔変わってるけど、ミリスなら見慣れてるでしょ?」
「や、ティアリスはどんな見た目でも可愛い。雰囲気がにじみ出ちゃってるから」
ただ、いつも口説こうとでもしているのかというレベルで甘い言葉を吐き、異常なほどスキンシップをしてくる。多分女好きというやつなのだろうが、妹への性欲(?)くらいはコントロールしてほしい。
「もうミリス以外みんな起きてるよ? 早く下行こっ」
「む、ミリスにぃと呼べと言っているだろう! 呼んでくれるまで行かんっ!」
……そして、間違いなくルミエール家で一番精神年齢が低い。
(はぁ、面倒くさいわね……)
ティアリスはミリスの方へと向き直り、すぅっと息を吸った。
「ミリスにぃ、追いてっちゃうよ?」
首をかしげ、自分が思うあざとさを精一杯込めた言い方をしてみる。するとミリスはなぜか胸のあたりを押さえ、
「う、置いてかないでくれ……三分で着替える!」
案の定あわて始めた。何となく可愛くて、つい笑みがこぼれてしまう。
「しょうがないなぁ、じゃあ女二人は外で待ってるから」
「いや、アリスには出て行って欲しいが、別にティアリスはそこにいていいぞ?」
「残念だけど私はミリスの裸とか死ぬほど見たくないから」
ティアリスはそう吐き捨てると、バタンと音を立てて扉を閉めた。そして壁に寄りかかり、ミリスが着替え終わるのを待つ。
「はい、着替えたぞっ!」
「はいはい、イケメンですね~」
三分と経たずに出てきたミリスを適当に褒める。冗談のように言っているが一応本心で、確かに妹のティアリスから見てもイケメンなのではないかと思う。髪の毛ふっわふわで睫毛バッサバサで男にしては華奢で肌白くて……さすが女はもちろん男にも言い寄られるだけのことはある。
「ふふ、だろう?じゃあ朝食を取ろうか」
「……確かに、ミリスのせいでもうそんな時間だわ」
アリスが差し出してくれた時計を見ながらそう答える。
「なっ……ティアリスはなんで俺にだけそんなに冷たいんだ……?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみれば?」
実を言うとこれがティアリスの素で、ミリスには気を使わず話しているだけなのだが。
「俺、なんかしたっけ……」
そんなことは知る由もないミリスは、涙目になって考えていた。
「あ、ティアリスちゃんありがと~っ! 遅かったわね~」
「私の力が足りず、ミリスお兄様に駄々をこねさせてしまいました。精進いたします」
「いや、俺はそんなことしていないぞ?」
こんなやり取りは日常茶飯事のため、家族が『兄妹仲いいなぁ~』と生暖かい目で見守ってくれている。だが、ティアリスとしてはミリスの相手をするのが面倒なので、何かしらフォローが欲しいところだ。
「……あの、ご飯にしません?」
「そうだね、これ以上ミリスが騒ぐ前にご飯にしよっか」
くすくす笑いながら、クリスが助け舟を出してくれた。さすがこの家で一番優しい男なだけはある。
「だーかーらー、俺は何もしてないの!」
……ミリスには響かなかったようだが。
「……(ふるふる)」
むすっとした表情でミリスを見つめ、何度か首を横に振ったキース。言葉にするとしたら『ティアリス困ってるでしょ? ミリス、駄目!』といったところだろうか。
「キースにぃ、しゃべれば?」
……こちらも残念ながらミリスが相手では意味を成さないようだ。
「はい、そういうわけだからミリスも座りなさい。私は今日も仕事があるのだから……」
「ちなみに、上のお兄ちゃん二人もね?」
ルミエール公爵のクロマティ、その跡継ぎのクリス、文官として王城に仕えながら大学に通っているキース。まだ仕事をしていないミリスには言い返す言葉が見つからなかったようで、諦めておとなしく席についてくれた。
「はい、それじゃあ頂きます」
「「頂きます!」」
皆で手を合わせ、声をそろえて挨拶をする。
そしてティアリスがミルクの入ったティーカップに手をのばしたところで――――
「失礼いたします! きっ、緊急のご来客です!」
いつも冷静沈着なことを売りにしている執事長が血相を変えてやってきた。
「……誰だ?」
「レミリオ・リ・アンセストラル第二王子殿下であらせられます……!」
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