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「……は?」
つい、ティアリスが王族に対してそう言ってしまってから約一五分が経った。その間頼んでもいないのにぺらぺらとレミリオはしゃべり続け、それをまとめるとこんな感じになった。
レミリオは舞踏会であの謎の女に惚れた。
しかし、名前を聞く前に帰っていってしまった。その際の落とし物がこの薔薇模様のガラスの靴のため,『薔薇の君』と呼ぶことにした。
どうにかして『薔薇の君』を見つけたいが、昨今では詐欺メイクなるものが流行っているため見た目はあてにならない。ついでに、名乗り出て欲しいと言っても偽者が大量に湧くであろうことは目に見えている。
そこで、残されたガラスの靴に目をつけたというわけだ。
「それで、この靴がこんなにぴったり履けたのはティアリスだけなんだ。他の人は足を入れることすら出来なかったのに、だよ? もう『薔薇の君』がティアリスだって分かりきっている、というわけ。君だったなんてびっくりだよ……!」
ティアリスの手をとり、レミリオはきらきらとした目で話した。
もちろんだが、ティアリスは『薔薇の君』ではない。足のサイズが同じだけの別人である。
(他の令嬢が足を入れることも出来なかったのは、十中八九靴が小さすぎただけでしょう。だからさっき従者さんとあんなやり取りをしていたのね……。靴屋の仕組みを知らないのかしら、オーダーメイドにしか縁のないご身分だものね)
「あの、違います。見てのとおり、私はただの地味な娘です」
レミリオの婚約者とか面倒な肩書きはもらいたくないため、あわてて否定する。
「いやいや、靴が語っているじゃないか。……もしかして、ティアリスは僕のこと好きじゃなかった?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
正直人柄は別としても第二王子という身分だけで好きにはなれない。ただ、間違っても嫌いとか言ってしまった暁には不敬罪に問われるため、質問にはノーと言うしかなかったのだ。
ついでに同じような理由で正式に結婚を申し込まれた場合もティアリスには断るすべがない。
(うぅ、私は目立たずに生きていきたいというのに……! この王子、常識が無さ過ぎやしないかしら)
レミリオの従者も死んだ目をしている。きっと以前からこの王子様に振り回されてきたのだろう。
「それなら結婚しよう。君のご両親にも挨拶したいな」
「いえ、だから本当に私ではなくて……そもそも、あの日は一度も殿下とは踊っておりません」
何とか顔に微笑を貼り付け、丁寧にオブラートに包んで結婚したくない旨を伝える。レミリオが普通の感性を持っているのなら確実にティアリスが拒否していると分かるはずだ。
「ティアリス、将来僕の妻になるんだから、敬語は要らないよ。僕のことはレミリオって呼んでくれたら嬉しいんだけど……」
(駄目だわ、この人微塵も話が通じない……)
助けを求めるように周りを見渡すが、アリスは『私には無理です』と言わんばかりに目を逸らした。従者にいたっては、『そんなん出来るわけねーだろ? せいぜい頑張れや』
と言っているかのような目でにらんできた。
……少し、いやだいぶむかついた。
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