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わたしは悪い魔法使いにさらわれた美しい姫。
高い高い塔の天辺の部屋に幽閉されちゃったの。
父上が魔法使い討伐隊を編成して救出に来てくれたわ。
でも、魔法使いの怖ろしい魔法で、討伐隊は全滅したの。
そうしたら、翌年、さらに規模の大きな第二次討伐隊を送ってくれたわ。
わたしは期待したのよ。
でも、やっぱり魔法使いの魔法の前に全滅したわ。
その翌年、第三次討伐隊が来たの。
今度は正義の白魔法使いも一緒だったわ。
でも、結果は悪い魔法使いの勝ちで、また全滅。
それから毎年討伐隊が来ていたけど、最近は来なくなっちゃった。
そりゃそうよね。
さらわれてから数十年だもの。
美しい姫だったわたしも、すっかりオバアサンだものね。
誰も助けには来やしないわさ、げほげほ……
わたしは悪い魔法使いにさらわれた美しい姫。
高い高い塔の天辺の部屋に幽閉されちゃったの。
魔法使いったら、偉そうに言うのよね。
「姫、お前はわたしと結婚をするのだ」
「イヤです! 誰があなたのような悪い魔法使いなんかと!」
そうきっぱりと言ったら、今度は泣き出しちゃって。
「……実は、わたしには呪いが掛けられていて、それを解くには美しい姫との結婚が必要なのです……」
「まあ、お気の毒ね。……でも結婚はイヤだわ」
「ならば、キスだけでも…… それで呪いが解けるかもしれないのです」
「……仕方がないわ、人助けね」
わたしたちはうんと短いお義理のキスをしたわ。
そうしたら、魔法使いのからだが光って……
蛙の姿に戻って、「ケロッ!」って一声鳴いたら塔の部屋の窓からぴょんと飛び出して行ったわ。
「呪いが解けたのね、良かったわ……」
でもわたしは相変わらず高い高い塔の天辺の出入り口の無い部屋の中……
わたしは悪い魔法使いにさらわれた美しい姫。
高い高い塔の天辺の部屋に幽閉されちゃったの。
魔法使いが言ったわ。
「お前は実はわたしの娘だったのだ!」
「嘘よ! わたしは王の娘よ!」
「今年で十五歳だろう? お前が魔女としての力が発揮できる歳なのだ。だからさらったのだ」
「嘘よ! でたらめを言わないで!」
「真実だよ。お前は最強の魔女となるのだ!」
わたしは耳を押さえて叫んだわ。
「嘘よ、嘘よ! お前みたいな嘘つき魔法使いなんか、消えて無くなって!」
不気味な悲鳴と共に魔法使いは消えて無くなったわ。
……どうやら、魔法使いの言った事は真実のようね……
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