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「まあこれだけじゃ証拠としては弱いから、まだ家には帰ってないか、会社は退勤したか電話したり、最寄り駅の監視カメラを調べてお父さんが改札を出たとこ確認したりしてね。ちょっと手間取ったけど、間に合って本当によかった」
床にしゃがんで両足の拘束を解きながら、彼女は状況説明を続けた。短時間の間にかなり駆け回ってくれていたらしい。
たびたび電話口で「わたし結構偉くなってきたかも」という話は聞いていたが、他の警察官に対してきびきびと指示を出す娘は本当に結構偉いのかもしれない。
「これから警察署で事情聴取させてもらうと思うけど、それ終わったら家に帰れるからさ。ま、何はともあれ――」
拘束を解き終えた娘は解いたテープを丸めながら、僕のほうを向いて微笑んだ。
「今日も一日おつかれさまでした」
ずっと聞きたかった彼女の言葉は、昔と変わらず優しい熱を帯びていて。
その熱は耳から沁み込んで目頭にまで伝播する。
「もう、いい歳して泣かないでよ。まあでも怖かったよね」
「……いいや、これはそういうのじゃない」
僕は小さく首を振って、世界一かわいい娘と目を合わせた。
「娘のお迎えはいくつになっても嬉しいものさ」
その言葉を聞いた娘は「はいはい」と呆れたように笑って立ち上がった。僕も痛む脚をさすりながら彼女の隣に立つ。
そして、月明かりの眩しい夜空の下。
僕と娘はふたり並んで家路についた。
(了)
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