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「おはよう、翔」
「おう篤史。おはよ」
「眠そうだな」
「ちょっとな…」
昨日、家に帰ってから飲み終わったカルピスウォーターのペットボトルを何気なく見たら、放課後カルピスという名のプロジェクト企画で、飲み終えたら新しいイラストが完成するパッケージが描かれていた。
そこに描かれていたのは、
『友達に会いに来た。ふりをした』
という文字と、廊下の窓から友達と話しながら女の子を見つめる男の子の姿だった。
一瞬その姿が脳内変換されてしまう…。
俺が篤史に用があるふりをして、その向こうで読書をしている田森理久を見つめている姿だった。
一体、俺の中で何がどうなってしまったのか…? 考えれば考えるほど眠れなくなってしまい、結局眠りについたのは明け方だった。
やっと眠れたにも関わらず、いつも通りの時間に母親に叩き起こされ今に至る。
「そういえば、辞書は返せたの?」
「えっと…、ああ…。まあね」
「ちゃんと、水やりの場所見つけられたんだな」
「あったり前じゃん」
任せなさいと言わんばかりに胸を張って答えて見せたものの、本当は全然どこにいるのかわからずに結構探し回ったことは言えない。
ふと視線を篤史の先へ向けると、相変わらずクラスに馴染む様子もなく読書をしている田森理久の姿が見えた。
昨日の脳内変換された光景が目の前をチラついて、思わず頭をフルフルと振る。
「翔、どうした?」
「いやっ、別に…。さっ、一限目始まるし、戻るわ」
「了解。またな」
「また」
片手を挙げて立ち去ろうとした時に、一瞬だけ田森理久がこちらを見た気がしたのは気のせいだろうか?
気になるけど今更振り返ることも出来ずに教室へと戻る。
やっぱり、俺は昨日からどうかしている。
何で田森理久のことばかり考えているんだろう…。
授業中に寝てやろうという思惑も、気がつけば叶うことなく昼休みを終え地獄の体育だ。
運悪くこんな日に限ってサッカーという運動場を駆け回る競技。
普段の俺ならサッカーともなれば活躍間違いなしだというのに、今日に限っては全く歯が立たない。
寝不足が関係しているのか動きも鈍い。
「佐久間、危ない!」
クラスメイトの声が届いた時には、すでに俺は思いっきり頭にボールを受けて気を失って倒れていた。
「いってぇ…」
頭に鈍痛が走り、思わず手で抑える。
目をゆっくり開いていくと、真っ白い天井が視界に入ってきた。
「あらっ、気がついた?」
シャーっと囲われていたカーテンが開き、見覚えのある保健室の先生が顔を覗かせる。
「頭に思いっきりボールがぶつかって、そのまま倒れちゃったのよ」
「ああ…、それでこの痛み…」
「まあ、しばらくは痛いかもね。念の為、病院へ行って検査してもらった方がいいかもだけど…」
「いやっ、別に大したことないから」
「けどね、当たりどころが悪かったら…」
「平気だって。ただ、もう少しだけここで横になっててもいい?」
「もちろん。ゆっくりして行きなさい」
先生は再びカーテンを閉めると、いつもの自分の定位置へ戻って行く。
俺は寝足りない睡眠を補うかのように、一瞬で眠りに落ちていった。
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