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海水が顔を浸した時はさすがに怖くなった。海が口を満たして、海が目を曇らせる。それでも砂に足はつき続け、水面がどんどん遠くなる。
潮風や波を切ってきた僕たちは、今海を切っていた。彼女の腕が導くままに深く深く沈んでいく。
裏山を降りたころ、不思議な感覚がした。相変わらずの冷たさと感覚は僕を包んでいたが、視界が開け、息ができる。
海に沈んだこと以外、僕の知っている街が顔をだした。
「すごい……」
と思わず漏らすと、口から気泡も漏れた。
それから夕方まで街を探検した。海の中の街はからっぽだった。人も猫も虫も、誰もいない。信号は止まり、店のシャッターは閉じている。ときどき魚の群れがまるで鳥のように水を翔けていった。
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