海に呼ばれて

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 家の近くまでくるとだんだんと水位が浅くなった。それでも海の底で、水面から顔をだした電柱がきらきら光ってみえた。やがて夕焼けが海越しにこの街を染めた。彼女の白いワンピースも、橙が気泡の影を模様のように染め上げた。  家までついて、 「またあした」 という僕に彼女は 「じゃあね」 といって帰っていった。  もちろん明日、会うことはなかった。それどころか、それ以来一度も再会していない。でもまたこの街が海に沈めば会える気がする。もちろん海に沈んだことはそれっきりないけれど。
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