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あー、あの日の、わいの冒険 1年生 その6 「チームトレインダッシュ」
わいの名前は 涼石 夏生。
これは、あの頃を思い出しての話。
ちょっと? 結構? 昔の話。
: : :
夏休みがはじまった。
あの頃、夏休みの朝といえばラジオ体操。
朝6時半ごろ、毎朝、学校の校庭などでラジオ体操が行われていた。
「眠い〜」って思いながらも、うちの じっちゃんがラジオ体操係りになっていたから、1年生の わいもサボるわけにいかんかった。
ハァー、眠い〜
ラジオ体操には出欠カードというのがあって、着いたらまずハンコを押してもらう。そして、これは最終日にノートに変えてもらうのだ。
学校の校庭につくと、もうすでに結構な数の子供たちが集まっていた。
「おはよう、ゆたやん」
サッカーボールでリフティングをしていた ゆたやんに声をかける。サッカーやってる、わいの親友「ゆたやん」や。
「おはよう、なっちゃん」
リフティングが続く。
「すげーな」
「夏休みの間に100回越えようと思ってる。あっ!」
そこで ゆたやんはボールを落とした。
「もうちょっとやったのに」
わい は周りを見渡した。
「なあ、他に誰かおる?」
「あそこに、優奈ちゃんがいる」
目線の先には、「みかん」こと宮地優奈がおった。
小学1年生やのに、大きくて わいのお姉ちゃん(4年生)と同じぐらい身長がある。食べることが大好きな彼女は、給食のお代わりをいつもワイと争そうとった。食べるのも早いが、悔しいことに足も わいより速い。
彼女は保育園の時にみかんを食べすぎて、黄色くなったことがあって、みんなから「みかんちゃん」と呼ばれとる。本人もみかん大好きやし、みかん可愛いからって、「みかんちゃんと呼んで」と自分から喜んで言っとった。
ラジオ体操が始まると、じっちゃんと、みかんの父ちゃんがみんなの前でラジオ体操の見本を見せる。
みかんの父ちゃんもデカかった。動きもデカい!
ああ、なるほど、さすがみかんの父ちゃんやって納得する。
なんでも、みかんのお父ちゃんは10種競技の選手で、陸上のスペシャリストらしい。つまり、アスリートっちゅうやつや。
まあ、それはいいとして。
わいの本番はラジオ体操が終わってから。
「ゆたやん、みかん、鬼ごっこしよー」
いつものメンバーで集まる。
「なー、他に誰かおらん?」
そういうと、
「じゃあ、パパやって」
といって、みかんが自分の父ちゃんの手を引っ張ってきた。
「一緒に鬼ごっこやってよ」
みかんのパパは俺らをみて
「でもおっちゃん強いでー。それでもええかー」
ニコッとしながら答えてきた。
ハハハ、なんか迫力ある。
でも面白そう。
みかんが提案する。
「パパ、鬼ね。みんな捕まえるまで、ずっと鬼」
「え、ずっと鬼?」
「そう、パパずっと鬼」
「……」
わいは「みかん。結構、鬼やな」と密かに思った。
みかんの父ちゃんは、ハハハハと笑って「OKOK、ほなやろか」と言うと、アキレス腱を伸ばした。
よーし、カールルイス走法で逃げるで。
「パパ、10秒数えたら来て。よーいドン」
いきなり、みかんが声をかけて逃げ出した。
「おいっ!」
と言っている間にもみかんの父ちゃんは数を数え始めたから、わいも慌てて逃げる。
「カールルイス♪ カールルイス♪」
と言って、太腿をあげて走ると早く走れんねんで、このスピード、おっちゃんもビックリやろ。と思って後ろを向くと、ニッコニコのおっちゃんが、信じられんスピードで近づいてきた。
「タッチ」
えっ、と思うとおっちゃんはもうすでに、ゆたやんを追っかけていた。
速や!!
すぐに、みかんも、ゆたやんも捕まった。
おっちゃんが、戻ってくる。
速すぎやろ、ニコニコすぎやろ、嬉しそすぎやろ。
「どうないする?」
ゆたやんが聞いてきた。
「人数増やそう。他に誰かおらへん?」
わいは周りを見回した。
「あの日陰に梶本君おるけど」
みかんが指さす。
梶本 明弘君。
同じクラスの子やけど、休みばっかりで、ほとんど教室には来てない子やった。運動してるところなんか見たことないけど……
「聞いてみる?」
「うん」
わいは、二人と一緒に梶本君のところまで走って行った。
梶本君はお母さんと一緒に、校舎の木陰に座ってこっちを見ていた。
「一緒に鬼ごっこやらへん?」
声をかけると梶本君は、ちょっと悲しそうな目をしてお母さんを見つめた。
?
どないしたんやろ?
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