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目的地はワカイビル
「会長。来ました。あれが夢タクシーです」
「うむ」
「急ぎましょう」
ワカイビルの地下駐車場で、若井会長と秘書は秘かにタクシーを待っていた。
客がタクシー送迎の連絡を入れただちに入金を済ませると、5分以内で到着するという夢タクシー。夢タクシーはライトを照らし、対象物を探しながら静かに地下駐車場に入ってくる。柱の陰から出てきた2人は眩しそうに目を細め、秘書がココだ、ココだと手を振った。
認知したタクシーは前照灯を消し、フォグランプのみで走行する。やがて目の前に止まると、助手席の窓が音もなく開く。
「迎えに来ました。夢タクシーです」
「先程電話したワカイの秘書の沢渡です。会長をお願いします」
「承知しました」
後部のドアが開き、どうぞと中から声が掛かる。しかし会長は運転手の顔を覗き、ルームミラーを通して顔を確認する。会長は早速その男に戸惑いの表情を見せ、乗り込むのを躊躇った。
このタクシーに乗車出来るのは1人だけ。会長は見知らぬこの運転手を信用していいものかと、警戒心を露わにした。
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